”TRIVIA
”町山智浩(映画評論家)が徹底解説!(ネタバレ注意!)
キーワード説明
トークショー映像

「ハンズ・アクロス・アメリカ」

1986年5月25日の日曜日、アメリカの西海岸から反対側の東海岸、カリフォルニアからニューヨークまでの約6600キロを600万人以上の人々が15分間、手と手をつないだ。主催者はUSAフォー・アフリカ。あの「ウィ・アー・ザ・ワールド」を呼びかけた慈善団体だ。「ウィ・アー・ザ・ワールド」は、マイケル・ジャクソンやブルース・スプリングスティーンなどの大物ミュージシャンがアフリカの飢餓を救済するための募金を呼びかけたが、「ハンズ・アクロス・アメリカ」はアメリカ国内のホームレスや貧困層の救済のため、アメリカ人の連帯と寄付を求めた。参加者にはオノ・ヨーコ、ライザ・ミネリ、そして当時の大統領ロナルド・レーガンや、後の大統領ビル・クリントンもいた。この慈善イベントは失敗に終わった。主催者は1億ドルの寄付を期待していたが、集まったのは半分にも満たない3400万ドル。そのうち1500万ドルは経費として消えた。

新自由主義的経済政策

レーガン大統領は富裕層に減税し、福祉への政府支出を削減した。演説では生活保護に頼る貧困層を「福祉の女王様」と呼んでスケープゴートにした。富裕層減税と福祉削減はその後も、父ブッシュ、クリントン、子ブッシュまで四半世紀も続き、この間に貧困層は3500万人から4600万人に増えた。トップ1パーセントの超富裕層が所有する資産額は全米13パーセントから40パーセントと3倍に増えた。

『チャド』

「ハンズ・アクロス・アメリカ」が映っているテレビの横には『チャド』(84・未)という映画のVHSビデオがある。都市の地下に住むホームレスが放射性廃棄物のために怪物と化するホラーだ。それは当時、ニューヨークの地下鉄のトンネルに暮らすホームレスの人々が社会問題になっていた事実にヒントを得ている。

「トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)」

ジョーダン・ピールの母は白人、父は黒人で、マンハッタンのアッパー・ウェスト・サイドという、豊かな白人たちの住宅街で暮らしていた。しかし、1980年代のマンハッタンは最もホームレスが多かった時代で、地下鉄やセントラル・パークには数え切れない黒人たちがうずくまっており、その横を通ってピール少年は学校に通っていた。そんな頃、彼はテレビで1960年代の白黒テレビ番組「トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)」(59~65)を観た。バス乗り場で1人の女性が自分とそっくりの女性と出会い、彼女に人生を乗っ取られてしまうというエピソードだった。

テザード

地下に閉じ込められた人々はテザード(縛られた者たち)と呼ばれ、縛りを断ち切る象徴としてのハサミを武器にする。真っ赤なツナギはアメリカの囚人服(オレンジ)に似ている。彼らは200万人を超える収監者たちの象徴でもある。1980年代から現在までの約40年間に全米の刑務所の収監者数は4倍に増えた。全人口に対する収監者率は世界一だ。そのうち3人に1人が黒人、6人に1人がラテン系。それは彼らの貧困率が高いからだ。現在、アメリカの収監者の多くが不法移民だ。トランプ政権が取り締まりを強化したからだ。テザードが家庭に入ろうとするように、メキシコとの国境から、貧しさとギャングの暴力から逃がれて来た中米の難民がアメリカに押し寄せ、それをトランプ大統領は壁を築いて容赦なく蹴散らしている。相手が子どもでも。